posted by 渡月・トワヤ
at 15:15:51 │
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傍らのカップから立てる紅茶の湯気に、
開け放った窓からすべりこむ金木犀の風が溶けてゆく。
早くも傾きはじめた太陽が、部屋を金色の光で満たしてく。
まるでボクは、光が射しこむ海の底で、きらきら眩しい水面を見上げているみたいだ。
今読んでいる本の印象が、そう感じさせてるのかな。
「きっといいことがあるよ」
穏やかでやさしくて、そしてちょっと不思議なお話。
傍らのカップから立ちのぼる湯気。
そう、こんな感じの、穏やかな午後。
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posted by 渡月・トワヤ
at 16:35:37 │
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彼とのデートから帰ってきたボクは、
胸に抱えたままだった小さな紙袋を迷うことなく飾り棚の、一番目立つ場所へと置いた。
店から出て紙袋を渡されたボクは、少しだけ困った顔をして微笑んだ。
彼の気持ちは本当に嬉しい。
けれど、買ってもらう理由が、どうしても見つからない。
彼に予定外の出費をさせてしまった申し訳なさばかりが先に立つから「ごめんな」って言葉が口をついて出そうになる。
でもそれは、彼の想いまでを否定してしまう気がして。
「ありがとう」
と口にしてみたものの、自分の中で折り合いがついていないから無邪気には笑えず、そのことがますます自分を苦しめる。
ボクはいつの間にか、無口になっていた。
「どうした?」
基本的に即断即決のボクが考えこむことなど皆無に等しいからか、彼は少し首を傾げて、ボクの顔を覗き込んだ。
長い時間をこうして寄り添って過ごしてきた彼とは、誰よりも理解しあえているつもりだけれど、わかってくれているはずだというのは、ただの甘え。なんでもないとやり過ごして残るのは、後味の悪さと後悔だけだ。
言葉にしなくちゃ、何も伝わらない。
「うん。あのな……」
上手に言える自信はまったくなかったけれど、彼にはちゃんと聞いてもらいたい。
ボクは背伸びして彼にだけ聞こえるように耳元で囁いた。
「……そうかぁ」
彼は目をぱちくりさせながらしきりに頷き「話してくれてありがとうな」とボクの頭をぽむぽむと撫でた。
言ってくれて良かったよ。
彼の優しい眼差しにそんな言葉が滲んでいるようで、ボクは彼がまたこうしてボクのことを受け止めてくれたことに安堵する。
「じゃあさ、こうしよう」
さらに彼が提案してくれたアイディアは、ボクの思いやワガママを全部包み込んで余りあるもの。
ああ、あなたは。
付き合う前から、ずっとこんなふうにしてくれたよね。
言わなくちゃ何も伝わらないとは思うけれど、ボクは全部を言う必要はなかった。
彼とボクの似ているところ、共通する価値観が、言葉を超えた部分を補ってくれるのかな。
それとも、彼がボクをそれだけちゃんと見つめていてくれていることの証なのだろうか。
愛するってそういうことなのかもしれない(しれっと)
時折思うよ。
口にも出したことがない「いつかこうなったらいいなぁ」っていうような些細な願望ですら、あなたにはなんだか筒抜けみたいなときがあるから、もしかしたらボクの心の声はあなたにはダダ漏れなんじゃないだろうか、って。
それはちっとも嫌なことじゃなく(ちょっと気恥ずかしかったりはするけれど)あなただからいいやって、思える。
そうだ。
だいちだから、嬉しいんだ。
ボクは隣を歩く彼の手をきゅっと握り、今度は心からの笑顔を彼に向けた。そのボクの頬は、きっとさくら色に色づいている。
彼とのデートから自室に帰ってきたボクは、
飾り棚の前に立って小さな紙袋を見つめ、こぼれる笑みを抑えられないでいる。
そしてその頬は、さくら色に染まったままだ。
posted by 渡月・トワヤ
at 10:17:41 │
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しとしとと降り続く雨。
先日、少し冷たくなった風に乗ってきた甘い香りはキンモクセイ。
その香りを胸いっぱいに吸い込んで高い空を見上げると、あぁ秋が来たなぁって実感する。
そう、いつの間にか夏は過ぎていて、本格的な秋の訪れ。
この雨で、あの小さなオレンジの花が散ってしまわないといいな。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:57:48 │
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なにしろ、初めてのことなんで。
いいのかなぁ……って内心、ずぅっとドキドキしっぱなしで、
彼がレジに向かったときにも、一体何処へ目を向けていいものやら。
店内のあちこちへと、ふらふら視線を彷徨わせてしまう。
posted by 渡月・トワヤ
at 16:13:07 │
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二人で肩を寄せ合いガラスケースを覗きこんで、
「アレじゃないか?」
「ん?どれどれ…」
お目当ての指輪。店員のお姉さんにガラスケースから出してもらって、指にするりと嵌め手をかざした。
なんだか照れくさくて、胸がドキドキする。
わー、お姉さん、そんな「微笑ましいものを見ている」笑顔でこっち見てなくていいよ!いや、まぁ、笑顔が基本の仕事なのは判ってるけども!
ボクは彼に指を見せながら
「…どう?」
と尋ねる。デザインは言わずもがな、サイズもちょうどいいから今更どうもこうもあったものじゃないんだけれど、なんだかそわそわしちゃって自身の指と彼の顔との間で忙しなく視線を走らせた。
面映くて、彼の顔もまじまじと見ていられなかったから。
こんなに近くにいたら、ボクのドキドキ、聞こえちゃうかな。
もし聞こえても、気づかないフリ、しててね。